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オペラグラス越しのシリウス

焼き焦がされたいオタク

先行販売に申しこまなかったオタク

オタク

先日、とある作品のチケットの先行販売があった。

「あった」と過去形にしたのは、申しこみ期間はもう終わっているからだ。

私は申しこまなかった。申しこもうと思っていたが、やめた。

 

その作品は、2012年からつづくシリーズの最新作だ。

私は、一作目から劇場で観ていたわけではない。好きになった俳優さんが出ていたからと、DVDを購入したのがはじまりだった。

きっかけは俳優さんだったが、DVDを見終った私は、作品そのものを大好きになっていた。

ほかの作品で見たことのない様式、演技と脚本と音楽との親和性の高さ、なにより俳優さんたちの楽しそうな表情……

私がそのシリーズを追いかけるのは必然だった。

 

シリーズの公演は不定期だ。

さいしょの方は数か月単位だったが、前々回から前回は約1年半空いた。

そのあいだ、すりきれるほどDVDを見た(年代のばれる比喩)。そして、次回作への期待に胸を膨らませた。

 

 前回の公演が発表されたとき、出演者一覧に私が好きな俳優さんの名前はなかった。

残念に思ったが、それ以上に楽しみだと思った。大好きな作品が帰ってくることが、本当にうれしかった。

最速の先行販売でチケットを申しこみ、そこで取れなかった公演は、つぎの先行販売で申しこんだ。

チケット代を払いにコンビニへ向かう途中、カラスにふんを落とされてもなお、「新作だ~~」と浮かれていたことをはっきりと覚えている。

 

そして、公演の日がやってきた。

開演5分前までに劇場に着けばいいと思っている私が、開場5分前には劇場に並んでいた。

しかし、1年半分の期待が詰めこまれた胸は、カーテンコールが終わったあと、すっかり破裂していた。

つまらない。シンバルを叩くサルのおもちゃのように手を動かしながら、私はそう思っていた。

なぜだろうと考えたが、明確な理由はわからなかった。

上手い人もいれば、噛みすぎな人もいる。好みじゃない脚本もあれば、書いた方と握手したくなる脚本もある。

だが、それは前までの公演でも同じ。

これまでとの違いといえば、私の好きな俳優さんが出ていないことだが、シリーズが好きな私にとって、出演者は作品の評価と関係ないはずだった。

 

漠然とした気持ちを抱えながら、帰りの電車でSNSを見た。

作品名で検索をかけると絶賛の嵐。1年半ぶりの人気シリーズなのだから、それも当然だろう。

そもそも、SNSにネガティブな感想を書く人はあまりいない。

それでも、私だけがつまらなかったのではないか、楽しめない私が悪かったのではないかと思った。

FAXしようと持ち帰ったアンケートは、結局、無記入のまま捨ててしまった。

 

その後、しばらくしてからその作品のDVDが出た。

もしかしたら面白かったかもしれないと思い、発売後すぐに購入した。

だが、全体を通しては2回、好きなシーンでも4、5回しか見ていない。

それまでのシリーズのDVDは今でも見るが、その作品のDVDは手に取ることもなくなった。

 

それから約2年。

ふたたび、シリーズ新作の発表があった。冒頭で言及した作品だ。

好きな俳優さんはいないが、前回出なかった俳優さんが帰ってくる。おもしろい作品を書く人が脚本を担当する。気になっている俳優さんが出演する。だから今度こそは面白いはずだと、チケットの先行販売期間を手帳に書きこんだ。

発表から2か月が経ち、先行販売の申しこみがはじまった。

メルマガで送られてきたURLをクリックし、枚数を入力するところまでいった。

だが、合計金額の内訳を見てやめた。「な~にが特別手数料じゃ~~」とホームボタンを連打した。

それでも、過去の私なら何枚も申しこんだ。

手数料だけが今回申しこまなかった理由ではないことには、とっくに気がついていた

 

たぶん、私は期待しすぎていた。

俳優さんではなくシリーズが好きなのだから、ずいぶんと待ったのだから、つぎの作品もおもしろいにちがいないと。そして、なにがあってもそのシリーズをおもしろいと感じることを、私自身にも期待していた。

だが、過度に膨らみすぎた風船はいつか割れる。それが、2年前のあの公演だった。

 

ほかにも途中で見なくなったシリーズはある。

その理由は飽きたからだったり、好きな俳優さんが出なくなったからだったりといろいろだが、後悔はまったくしていない。

ふたたび風船でたとえるなら、ぱんぱんにこめられた期待は知らぬ間にしぼんでいた。だから、なんの衝撃も受けずに済んだのだろう。

今回に限りわざわざブログを書いたのは、とにかくショックだったからだ。

そして、そのシリーズを好きでありつづけられなかった自分に罪悪感を抱いているからだと思う。

私はそのシリーズが大好きだった。過去形ではあるが、それは変わらない思いだ。

 

もうすぐ、シリーズ最新作の一般販売がはじまる。

チケットを買うかどうかはまだ決めていない。朝起きてみて、買いたい気分だったら買おうと思う。

だがもし、チケット代を払いにコンビニへ行く途中、カラスにふんを落とされたら、きっとそのまま家に帰って二度寝するだろう。

 

おわり